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08.07
Tue



胸ポケットから煙草を取り出し、一息つく。



ここは現実の診療所だ。

当然、ロイズが依代に使ったぬいぐるみに風穴は開いていない。



話を整理しておきたかった。窓を開けて、外の様子を眺める。



行き交う人々。

夜の街は昼と見紛うほどに煌々と照らされ、客を吸い寄せていく。

反面、繁華街の向こうは闇が広がっている。

申し訳程度に点在する街灯は頼りなく、暗闇は至る所に存在している。


この時代、暗闇に目を凝らしても見えるのは妖の類などではない。


街を歩いていて、何気なく目をやったビルの窓の向こうで飛び散る鮮血。

あの時路地裏の闇に目を凝らさなければ、殺されずに済んだのに。

不用意に目を凝らせば、他人の保身が己を殺す。そんな錯覚。


昔と違い、一人で完結する世界に生きる人間が増えた今、心が孤独であればあるほど絶望は深みを増していく。

離れても近づいても、孤独からは逃れられない。

不安という闇を抱えたまま、その身を摩耗していく。



人は闇を恐れる。だが闇は光の不在を意味しているだけの形のないものだ。

人が言う孤独も、また同じようなものではないか。


他人の心は深山幽谷よりも険しく深淵で、途方もなく手が届かない遥か彼方にある。

だが同時に、もっとも近くに存在するものでもある。



自身の心を照らす光は、自身の内側にあるものだ。

人は皆一人だ。だが人は、孤独のままでも世界と相対し、満たされることが出来る。

自身の強さ、心の光によって。





テレビを点ける。

ちょうど『終末病もどき』の事件を取り上げている所だった。

今回のもどきの主犯は複数犯。みな終末病の信奉者で、全員があの現場で死んだとの事だ。

事件現場からは声明文のようなものが発見されており、内容はこのようなものだった。

「我らは終末神の代行者。絶望に打ちひしがれし者は皆我らが信ずる神の使徒である。

我らは神の御下へと、汚れた肉体を捨て去りその魂の救済を求める」



これは、マズイ。ロイズがわざわざ降りてきたのも無理はない。

声明文を残すだけで引き継ぎを完了する。

これで『もどき』は最初の怪事件となって、世に出ることになった。

誰とも言い合わせる必要もなく、これからも同じように飛び降りが続くのだろう。

絶望に魅入られた人間の数だけ続いていく集団自殺の連鎖。



電源を切る。

今は、私がやらなければならない事をしよう。








情報を整理してみる。


神様の消失と共に起こった、怜の力の発動。

怜の告白。人を殺したと言う怜。だが殺害されたのは古澄ではない。

古澄の証言。怜の過去の殺人。

怜はそれ以来精神を病み、古澄も同様に病んでいった。

怜の力は人を消す。終末病と似ているが、異なる力。


古澄に話を聞いてから、私は怜が殺したという人間の消息を調べてみた。

事件があった年に、その付近で殺人事件は起こっていないが、行方不明になった人間が一人だけいた。


怜の力によって消えた人間は行方不明、いわば神隠しのようにこの世から消失する…

怜はあの日、神様を消した。怜と神様は、共犯だったのだろうか…




「しーちゃんおっす」


「おわあ!」


振り返るとすぐ隣でロイズが今度は実際の姿のまま顕現してそこにいた。小さい体に不釣合いな白衣を纏って、長い髪を無造作に束ねている姿は相変わらずだった。


「驚かせるな!しっかし、なんで普通の姿で…」


「次呼んだら、両耳もがれちゃうでしょ、ソレ」


デスクの上に鎮座するウサギを指すロイズ。あー。


「そんなに呼びたいのか…」


膝から崩れ落ちる気分だ。どういう事に力を費やしてるんだこの神様は。


「怜ちゃんの事だけどね」

「怜ちゃんは夢を視ている。都合のいい夢を。ただ、基本的には時系列に沿って夢を視ているんだよ」


目の前の眼鏡は確信を以ってそう言い切った。

調べてきた、ということか。なら。


「告白の事を忘れているのは、彼女に取って都合が悪いからだな。そして、重要な相談事をした相手として、私は信頼を得た。都合のいい夢のお陰で」


「そう言うと悲しいから、不幸中の幸いということにしようよ」


「時系列に沿って、ということは、まさか」


ロイズは人差し指を立てると知的な笑みを浮かべる。


「やがて彼女は彼を思い出し、そして運命の日は訪れる」


カッコつけても身長が足りてない、とは言わないでおいた。


「それなら、なんとかなりそうだ」


「『暴食』は勿論、夢の中でも発動するでしょう。いざという時の為に、一応保険は掛けておいたよっ!」


そりゃ頼もしい。ロイズは手を差し出すと、手のひらから小さい紙縒りを出現させる。


「なんだこれ。神様の鼻にでも突っ込むのか?」


「お守りだよー。これで多分戻ってこれるよきっと多分もしかしたらねー」


多分2回言ってるからな…。



「んじゃ、健闘を祈ります!さらばっ」


…消えやがった。





さて、残された時間は少ないが、怜の様子次第で仕掛けよう。

次の終末病もどきまでがタイムリミットだ。
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